前号へ  次号へ               


値洗いと証拠金
福島 恒堆
 私がこの業界に入ってきたころ、証拠金は売買証拠金と委託証拠金の二重構造になっていた。売買証拠金は取引所会員に適用される証拠金であり、委託証拠金は委託者に対応するもので、その比率はおおよそ1対10で、確か、小豆1枚に対して委託証拠金が4万円で、売買のほうが4千円程度だったと記憶している。当時から、この売買と委託の比率こそ相場に対する影響力という点で一般委託者に不利に働くというようなことが言われていて、それだけの理由でもないだろうが、長い年月をかけて、現在のような姿に是正されてきたものと思う。
 なぜ会員の証拠金は委託者の10分の1でよかったのか。会員は毎日値洗いをし、その差金を現金で授受するからで、市場が抱える違約リスクという意味では一般委託者とは比較にならないほど小さいからにほかならない。先物取引は、将来履行する取引の値段を今決める取引であるが、これをそのまま漠然と放置すれば、取引所なり清算部門は約定日から納会日までの価格変動リスク全てを背負い込むことになり、それでは市場自体が成立しない。先人の知恵というか、値洗い清算は、この先物市場が本源的に抱えるリスクから解放する制度だったといえ、値洗い制度があるからこそ先物市場が成立している。ただ、値洗い日と清算日には若干のズレがあり、当時は中一日あったように記憶するが、その中一日の三日間のリスクを売買証拠金は補えればよく、その余については、わが国の商品取引所では全会員が全会員に対し与信し、クリアリングハウスのある外国では清算会員が与信していたことになる。それが今ではいわゆるT十1で、翌日清算となっており、与信リスクという意味ではかなり軽減されてきているといっていい。先物市場は、取引から発生する差金を値洗いする制度と取引の担保である証拠金という両輪でその市場の信用を確保してきたことになる。
 前回の法改正で、取引証拠金制度が直接預託になったことから混乱が起きていたのはわかるが、当時、業界こぞって、値洗い差損益は「未実現損益」と断じたのにはいささか驚かされたが、値洗い差損益金は値洗い制度があることにより会員と取引所の間、あるいは会員と清算機構との間では「実現損益」に違いなく、今回、清算機構が、値洗い差損益を「実現損益」と捉えるよう制度修正することは、当然といえば当然といえる。
 ここのところ話題となっているスパン証拠金は、相場変動リスクを念頭においた証拠金制度で、ボラティリティが高くなれば必然的に証拠金が高くなることになる。これは、あくまで証拠金という取引の担保のあり様で、昔でいえば、売買本証拠金を数学的な根拠をもって設定し、その後、日々ボラティリティを精査し、臨増なり割増をどの程度かけるかということを数式化したものといえるかもしれないが、そのスパン導入と値洗い差金の見直しには何の関係もないということなる。
(週刊 先物ジャーナル 09年11月16日 1014号 掲載)

inserted by FC2 system