この本には「ロスチャイルドから”強盗慶太“まで」とサブタイトルがついている。政界の金融王ロスチャイルドが出世の糸口をつかむのは、ワーテルローの戦いで、ナポレオンの敗北が確実になった時だ。最前線で戦況を見詰めていたロスチャイルドは英独連合軍の勝利を確信すると一目散にロンドンを目指す。大荒れのドーバー海峡を決死の覚悟で渡り、ロンドン株式取引所にたどり着いたロスチャイルドは暗うつな表情で株(一説には公債)を売りまくる。
取引所に集まる場立ちや仲買人は戦場から駆けつけたロスチャイルドが売るということは、イギリスが戦争に敗けたに違いないとにらんで、一斉に売りに出て、相場は暴落する。
ロスチャイルドは表立っては売りの手を振り、裏に回っては買いまくっていた。やがてナポレオン敗走のニュースとともに株式取引所は買い人気で沸騰する。ロスチャイルドの勝因はニュースを一刻も早く、しかもわが目でつかむことを心掛けたこと、そして市場を撹乱する駆け引きに長じていたのであろう。ケインズも言っているが、市場とは、駆け引きの場であり、上手に有財餓鬼の目を欺くことによって成功する。
市場はしばしば戦場にたとえられる。平時の戦場たる市場では銭を巡る男たちの葛藤が廷々と繰り広げられて二千数百年の歴史を刻む。悠久の歴史ととも生きる市場は古来、毀誉褒貶にさらされながらも、しぶとく歩み続ける。一片の法律で息の根を止められるほど、やわではない。「慾望」という人間の悲しき性が角突き合わせ格闘するのが立会場であるからだ。
「虎市」という言葉がある。時の政権が公設市場を閉鎖すると、投機師たちは裏山に駆け込んだ。
「徳川時代に大阪の米相場を禁じたら、今度は竹薮の中でかくれて相場をする。牡丹に唐獅子、竹に虎ということからこれを虎相場と呼んだ。人民を挙げて虎たらしむるは、治国平天下の術ではない。ここにおいてか、適当の法律を設けて、善導していくのである」(細貝正邦『経済記事の読み方』)
さて、この本ではロスチャイルドから五島慶太、堀康次郎まで25人の相場師の墳墓を掘り返し、戦場での武勇伝を縷説するのに加え「先物寸言」の章を設け、本紙に掲載したコラム31本を収録する。乞う御講(購)読。