コメ先物、8月8日開始に正式決定
本上場までのハードルは? 東穀取=東工取統合は白紙撤回に
東京穀物商品取引所と関西商品取引所は7月19日、主食用国産米の先物取引を8月8日に開始すると正式に決定した。今後、2年間の試験期間を経て、本上場への移行を目指す。また同日開かれた東穀取と東京工業品取引所の両取締役会では、来年にも予定されていた両取引所の統合案を白紙撤回することも発表された。本上場については今も、JA(農業協同組合)が「本上場だけは絶対阻止しなければならない」と強い反対があり、試験上場期間中に、東工取の農産物市場開設や建玉移管などが認可されるのは困難であるとの判断が白紙撤回の理由となったという。少なくともコメの本上場までは、東穀取が継続して農産物市場を運営する責任を担うことになる。
(益永)
「米価の乱高下」に反対
JAの反対理由を改めて検証してみると、「コメの本上場までのハードルは想像以上に大きい」(コメ卸業者)ようだ。そして、そのハードルを乗り越えれなければゴールも見えてこない。まずはそんなJAの反対論を検証してみたい。
(社)農協協会が発行している農業協同組合新聞(http:/www.jacom.or.jp/colum/)に「正義の農政論」というコラムがある。その内容は、コメの先物取引に関する限り100%反対論だ。社説ではなく、個人名のコラムだが、取材したコメ関係者たちは、「素人にも分りやすいからまず、これを読んでみて」と教えてくれた。例えば7月11日付の同コラムには、こんな反対理由があった。
(1)(先物市場が出来ると、)誰でもインターネットで、「カラガイ」「カラウリ」ができるようになり、米価は、大量の投機マネーを持つ相場師が決めることになる。その結果、米価は乱高下するだろう。
(2)東穀によるコメ先物の商品設計では、6万円で100俵、つまり140万円の取引ができる。投機性が強い。農業者がこのゲームに参加した場合、勝負の相手は卸売業者だけでなく、大量の投機マネーを持つ百戦錬磨の相場師である。素人の農業者が出る幕ではない。それゆえ、農協は参加しない。
(3)しかし、参加しないからといって、先物市場からの影響を絶つことは出来ない。毎月20日の決済日には、現物と先物の価格は同じになる。違っていれば、相場師は「サヤトリ」でひと儲けできる。現物の米価と先物の米価とで、どちらが主導して価格が同じになるだろうか。現在、東穀取に上場されているトウモロコシの先月の取引高は、実需の約4倍である。コメは、トウモロコシより活発に取引されるだろうから、先物の取引高が、実需の10倍以上になることも予想される。結果、先物米価が米価を主導するに違いない。
(4)ちなみに、トウモロコシの先物価格の乱高下は、1ヶ月の間で10%以上の幅で上がったり下がったりする。コメに当てはめれば1ヶ月の間に1400円以上の上下である。
(5)現物価格が乱高下すれば、コメの生産と流通は深刻な影響を受ける。これは放置できない。これからの試験上場の2年間の後の本上場を阻止しなければならない。
先物市場の値動きがまるで「投機マネー」でのみ動かされているかのようなこれらの指摘の中には、過去の例えば「小豆相場」のイメージが依然として残っているのではないかと思わされる部分もあるが、先物の値動きがあることは間違いない。それがコメの生産・流通を阻害するような乱高下になってはならないが、試験上場期間中にこうした生産者の心配の種をどの程度なくせるか、東穀取・関西取の市場管理の手腕が問われる。
「個別補償制度」と先物利用
もう一つのハードルは、農家保護政策への依存体質だ。
2010年からスタートした「個別補償制度」では、コメ農家の所得を安定させるため、およそ180万戸を対象に耕地面積10アールあたり1万5千円が支給され(固定部分)、さらには販売価格が清算コストを下回った場合に差額分が支払われる(変動部分)。
この政策と先物市場との関係について、7月22日付の同じコラムはこう語る。
「やがて、多くなった変動部分は無くしてしまえ、という乱暴な主張が出てくるだろう。変動部分は先物市場でへッジせよ、と主張するだろう。市場原理主義者は、自己責任だ、という得意な常套句を使って脅すに違いない。そうなれば、生産費を補償するという点で高く評価された個別補償制度は根本から崩壊する」。
要するに、先物市場が機能し始めたら、農家の既得権益である補償金が減ってしまう心配があるということだ。
実は、米国でも90年代初頭に、穀物の先物オプションを利用してヘッジをする農家には各種補償を止める代わりに、オプション料は政府が支払うという実験が3年間実施されたたことがある。最終的に、オプション価格が上がると、収穫以前でも、利食ってしまう農家が少なくなかったため、その後は継続されていないが、先物市場は今では「価格指標」の一つとして、大半の米国の農家に利用されている。
農業政策と先物政策が今後、どう融合するのかしないのかは不明だが、わが国は、この個別補償金として2010年には約5600億円、2011年には1兆円超もの予算を組んでいる。その原資は言うまでもなく国民の税金である。コメ先物がスタートすることによって、こうした国の予算が節約できる可能性が生まれることだけは確かだ。
本上場までにJA関係者たちにも先物市場賛同者が増えるよう期待したい。 |