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国境越え取引所統合の明暗(上)
杉江 雅彦
国境を越えた大型の取引所合併話が、昨2010年から今年にかけて3件も合意に達したと思ったら、そのうち2件が破談となり白紙に戻ってしまった。なんとか話がまとまったのは、ドイツ取引所(DB)とNYSEユーロネクストの合併だけである。あとの2件とは、シンガポール取引所(SGX)によるオーストラリア証券取引所(ASX)の買収と、ロンドン証券取引所グループ(LSEG)とTMXグループ(TMX)の合併であるが、破談になった理由を知るにつけ、国際的な取引所合併がいかに困難な問題をはらんでいるかが見えてくる。
ひとつは、取引所を公共財つまり金融インフラと考えるか、それとも収益の追求機関である企業とみるかの問題である。他のひとつは、世界の多くの取引所が株式会社組織となっていて、株式を上場している取引所も存在することである。SGXとASXおよびLSEGとTMXのそれぞれについて、右の二点を頭に置きながら破談にいたった背景を考えることにしたい。
まずシンガポールとオーストラリアであるが、オーストラリア国内では資源国としての意識の高まりを受けて、アジアの金融サービスセンターを目指そうという世論形成がなされつつある。そんな折りに、事もあろうにASXより規模の小さいSGXの傘下に入ることは国益に反する、との野党攻勢の前に、少数与党である現政権は両取引所の統合を承認しないという決断を下した。経営戦略面で合意した両取引所の意図は、土俵際で政治にうっちゃりを食った形になった。
次にLSEGとカナダのTMXの合併話。このケースも規模の大きいLSEGがTMXをほぼ3対1の割合で合併しようとする、実質的には買収に近い統合である。ここでもカナダの国益が前面に現れた。TMXはカナダのトロントおよびモントリオール証券取引所の親会社であるが、それらの取引所がロンドンに経営主導権を握られるのを阻止しようと、国内の大手銀行や損保会社が出資して、その名もメープル・グループ・アクィジションを設立し、TMXに対する敵対的買収に乗り出した。これに対抗しても株主総会で必要な賛成が得られないと判断したTMXは、合併計画の撤回に追い込まれた。
このふたつの統合破談をみると、取引所が株式会社であるのを利用してTOBによる買収を通して統合し、あるいは統合を阻止することが可能になる点が明らかである。もし、ひと昔前までのように取引所が会員組織であればこのような形の動きは現れなかったにちがいない。商品取引所の統合が何故起きないのか。次回に続きを話したい。 |