前号へ  次号へ               


商先業者の立ち位置
福島 恒雄
 市場が静かだ。相場は荒れた動きをしているのに、いかにも閑散とした印象を拭えない。東日本大震災後の投資意欲の減退を指摘する声も多いが、当業界の場合、もちろんそれだけが原因でないことは誰もがわかっていることだろう。本年初頭から改正法が施行され、制度自体が、その呼称も含めドラスティックに変わった。不招請勧誘の禁止が実施され、その適用除外としての損失限定取引、スマートCXが導入され、各社ともその対応に努力されていることと思う。適用除外取引を導入していない業者も存在するが、新規顧客獲得の営業手法を従来型に置く限り、不招請勧誘の禁止という壁はどうしても越えなければならない制度であろうから、いずれは損失限定取引を導入せざるを得ないはずだ。商品化、未導入状態が単に対応の遅れなのか、従来型の営業手法から脱却を図った、あるいは図ろうとしている結果なのかはわからない。仮に過去の成功体験に決別した結果であるなら、当業界にとって新しいビジネスモデルになり得るものであるはずであるから、それが成功し、商品先物市場への新たな参加者が増えてくれることを祈るばかりだ。
 本年以降、新規客獲得件数が激減しているという声をよく聞く。新規の減少により市場の流動性が減退している、という意見も聞かれる。そのことは出来高と取組高が如実に語っている。ところがその一方で、HFTを代表とする海外マネーが参入し始め、東工取が一定の国際的評価を得られつつある、というニュースもある。
 この明暗分かれるとこをは、視点の違いであり、今後の当業界の方向性に対する立場の違いとしかいいようもない。不招請勧誘の禁止による新規顧客獲得の減少という暗の視点は、個人を支えてきた商品先物取引業者サイドの視点であり、これまでのの成功体験、営業手法に立脚したもの。一方、明るい方は、取引所。市場からの視点で、海外マネーの流入に国際化への兆しを垣間見て、上海などの他の市場に埋没することのない国際市場へと飛躍するという夢を描いているものということになる。
 同じ状況にあっても、取引所と業者の立場と視点が乖離し始めているのだ。
 ここ何十年間にわたる当業界の歴史を振り返ると、この業者の立場と取引所サイドの視点は、出来高という点で完全に一致していた。取引所にとって、商先業者はマーケットのボリュームとリクイディーを支える力であり、少々のヤンチャをしても出来高をより多く持ってくることこそが優秀だった。多くの業者がルールを守り続ける中で、ルールの穴を見つけ、うまく立ち回り、出来高をより多く稼ぎ出すのが優秀な社員だった。出来高を稼ぎ出せば出すほど、報酬は上がり、ほんの数年前まで、耳を疑うほどの報酬を得ていた営業社員が数多く存在していたはずである。
 しかし、時代の流れとでもいうか、それら優秀な営業社員が優秀さゆえに発生させてしまう苦情、紛議の和解金なり、賠償金などが、それまでの金額とはかけ離れた金額となり、その報酬とあわせると、支えきれない水準にまで経営コストをかさ上げし、コンプライアンス・リスクとして経営を圧迫しはじめてしまった。業者の営業環境における出来高という中心概念が、経営環境の現象面から揺るぎ始め、平成17年の改正法施行以降、業者数は三分の一までに激減した。倒産廃業に到る直接的原因は様々であるが、基本的には、優秀だった営業部門が、反対に著しい負担、重荷となってしまい、優秀だった営業部門を切り捨て、新規開拓、出来高及び手数料を核とする営業手法は崩壊していたことになる。当業界は今回の不招請勧誘禁止のはるか以前から、過去の成功体験に基づく営業方針の転換を迫られていたのである。

inserted by FC2 system