平成23年
4
月4日(月)
(毎週月曜日発行)第1083号
発行所 有限会社 先物ジャーナル社
発行・編集人 高橋 伸幸
〒103-0013
東京都中央区日本橋富沢町11−15−702
TEL 03-3668-3450 FAX 03-3664-9275
購読料・月2,310円 年27,300円(税込み
)
←
前号へ
次号へ
→
◇
デリバティブ復興に向けて
9・11米国市場休場の教訓はなぜ生かされなかったのか?
◇"めらの目"銀貨・銀地金、米国民不満の受け皿
◇"先物寸言"わが国の商品ファンド=国内市場への投資(最終回)
◆"アングル”
・中国、トウモロコシ250万トン輸入へ
・金、高値更新、利食いで後退
・ベトナム、金地金輸出制限を
デリバティブ復興に向けて
9・11米国市場休場の教訓はなぜ生かされなかったのか?
「震災被害に遭った人たちや、日経225オプションで損をされた方々には申し訳ありませんが、私は今回、たまたま安いプットを買っていて儲かりました。オプション取引は今後も続けたいと思います」。
こう語るのは、3月11日の東北大地震直後の大証イブニングセッションで、「もしや」と思い、ディープアウトの日経225オプション・プットを1円、つまり1枚1万円で購入した投資家。
1円で買ったこのプット・オプションは、15日には一時500円(1枚500万円)近くまで跳ね上り、この投資家は「オプションは、本当にこんなことがあると天にも上る気持だった」という。
しかし、今回の震災後の相場では、この投資家とは逆に、大きな損を出した投資家も多かった。
零細投資家による集団訴訟の可能性も
日経225オプションを取引する個人投資家の多くは、「若い、零細な投資家で、投資額もせいぜい十万円単位の投資家たち」(証券関係者)だという。この投資家も、5枚ほどのプット買いだったというから、そんな個人投資家たちの一人だったろう。そして、この投資家とは逆に、安いプットを売った投資家の多くもまた同様の零細投資家だったために、「14日の追証までは払えても、二の矢はなかった。だから15日には皆、強制決済され、多額の未払い金を出してしまった」(ひまわり証券会社関係者)ケースが多発した。
しかし、こうして多額の「負債」を負ってしまった投資家たちの中からは今、こんな声も聞こえる。
「幾らなんでも、14、15日のプットの急騰は異常だったのではないか。オプションは、必ずしも理論価格通りに動かない時もあるとは聞かされていたが、それでも誰かが人為的に操作した事実はないのか、取引所にも改めて調査して欲しい」。
実際に、3月31日には、ある弁護士事務所が、震災後2週間を過ぎて、こうした「被害投資家」たちの依頼を受け、一部の証券会社を相手に集団訴訟の準備に入り、証券取引等監視委員会に特別調査を依頼したという話も聞こえてきた。
「その証券会社も今回の相場で多額の立替金をかぶった会社だが、ストップ・ロス取引を認めており、投資家にまだ余裕資金があった場合でも、ロスカットされた。しかも、大証のティックには、その取引の記録がなかったために、問題になっている」と消息通のある証券関係者はいう。
要するに、その会社は、「自己」で儲けたのではないかと、弁護士たちは言うわけだ。
オプション市場のディープ・アウトの権利行使価格市場の流動性の薄さを考えると、ロスカット取引がそう簡単に成立するはずもなく、証券会社側からすれば、歩の悪いポジションを肩代わりした、いわば「善意」のロスカットに違いなかったとも思えるのだが、「被害者」側は、あくまでも「向い取引=悪」の理屈で攻めてくると見られている。それでなくても多額の未収金を背負っているその証券会社からすれば、まさに踏んだり蹴ったりというところだ。
国際化より国内市場を守る姿勢が必要に
そんな中、3月31日には、ひまわり証券が株価指数先物・オプション取引顧客の決済不足額が80億円に上り、顧客債権をひまわりホールディングに譲渡すると発表した。
これを聞いた大手オンライン金融グループのある幹部は、憤懣やる方ない口調で、こう語る。
「今回の暴落で未収金を抱えたのはひまわり証券だけではない。公表されているだけでも松井証券が35億、マネックス証券が15億、カブコムが39億、岡三オンラインが18億の未収金を抱えた。
「だが、問題はオプション市場だけではない。現物株市場も、14日からの1週間で、時価総額にして16兆から25兆の損害が出た。ボトムでは50兆円も減少していた。株はそもそも資金調達の手段。その意味で基本的にドメスティックな市場であっていい。グローバル市場といわれる米国でさえ、9・11テロの直後から3日間は、証券・商品の取引所取引を停止した。テロと震災の違いはあるにせよ、日本でも、15日に原発の放射能漏れを発表する前に、政治力で取引所を休場させるぐらいの決断をしてもらいたかった。炭素菌と放射能の違いはあっても、『将来の見えない恐怖』は一緒であり、今回も取引所に『非常事態』という認識があれば、そうしたに違いないとも思う。少なくとも、他の国の市場が開いているから、グローバル市場として開け続けるというのは取引を継続する理由にして欲しくなかった。結果的に、国民の財産が大きく目減りしたという事実だけは認め、その責任を感じてもらいたいと思う」。
今回の震災とそれに続く「放射能漏れ」が、例えば米国では、9・11と同じ「レベル5」の非常事態であったことは、実は3月14日には、海外のマスコミで報道されている。
そのため、日本在住の「外国人」には、本国から避難命令が出されるなどして、数多く「海外避難」した。そんな中で、仮に東京の金融市場が休場したとしても、あの時点では「予防」として認められたはずだと、この関係者は語る。
そして、「いずれにせよ、日本売りは今後も続く。我々はまずは国内需要を高め、市場も復興させていくしかない」(同氏)というのである。
ただ、現実には、3月13日の時点ではまだ、日本人の多くが今回の災害の大きさに気づいていなかった。
14日には商品業界でも取引継続の可否が大きな話題になりもしたものの、「取引所は開き続ける」という東京工業品取引所の決定に、業界関係者が、それ以上反対できなかったのもまた、事実だった。
また、冒頭の個人投資家のように、取引所が開いていたおかげで、望外な利益を上げ得た投資家もいることもまた、事実である。
ただ、非常時の取引継続に関する意見は今も様々だ。
ある商品先物関係者は、こう指摘する。
「14日の夜間取引を開くかどうかについて、東京工業品取引所は、『株主』の大多数が反対の意向を示したにも関わらず、開催と決めた。天下り社長は、官僚と同じだと思った。市場参加者の声より大切なものは何だったのか今も聞いてみたい」。
今は、米国の先物取引所でも、「株主」と「取引所の運営陣」とは区分されている。日本でも、決断は取引所が最終的に下せばよい。トップの経歴や待遇についても、市場が適切に運営されるのであれば批判されるべきではない。
しかし、その結果、現場で取引するブローカーやその顧客だけが悲劇に見舞われるとすれば、今後は厳しく指弾されることになるだろう。
証券・商品先物市場の今後の復興のために、今回の震災で関係者全員が感じ、考えていることのすべてが教訓になることを祈りたい。
(2011年4月4日―第1083号)