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なにくそ不招請勧誘
沼野 龍男
今年も甲子園が始まった。高校野球大好き人間の私は、母校が地区予選の5回戦にまで駒を進めたので、矢も楯もたまらず大阪に飛んだ。ベスト8をかけたが接戦の末敗れた。1球1打、最後まで諦めない姿に感動した。
さて、昨春に大学を卒業して某証券会社に入社した九州男児のY君。近くを担当して早や2度目の夏が来
た。筆書きの挨拶状をボスティングしながら雨の日も風の日も、軒並み訪問していた。
歓迎新入社員、『失敗と辛酸が人間を大きくする』と題して、本誌でも紹介させてもらった。
礼儀正しい彼の姿には多くの人が好感を持っているが、世間話のようには勧誘の成果は挙がらないようだ。我が家はもっぱら女房が対応役で、調子よく話しているが、最後は主人が反対なのでと旦那の所為にしたり、そんな余裕もないのでと断り続けていた。これ見よがしに、彼に渡された資料が私の机の上に置いてあることが多くなった。最近はオーストラリアドル建て債を勧められている。「為替ヘッジしていないので、円高になれば値下がり損が出ます」とリスク欄のトップに掲げてある。妻はY君が若いころの息子や、将来の孫の姿にダプつているようで、自分の手持ちで何がしか協力したいと言い出した。新人の最大の強みに押されたようだ。最近のY君の話し方に異変があるという。始めの2、3分間ぐらい吃るんだそうだ。多くのプレッシャーが想定される。今年の新人も活動を始め、先輩としてのノルマ、目標もあるだろう。何よりも社会人としての正念場を迎えていることを痛感してるだろう。「お前の好きにすればよい」と答えたら、安堵の表情を隠さなかった。1口約10万円の豪州債を2口注文していた。これは母性的で、甘く、やさしいもので、Y君の真の成長の助けになったかどうか分からない。
5年先、10年先、彼は何人もの人の上に立っていることだろう。そして、部下たちが今どんな苦労をしているか、どんな気持ちで仕事をしているかが、彼の体験上、手に取るように分かるに違いない。そして部下たちをうまく指導育成していくだろう。買った商品の値上がり以上に、彼の未来に賭けたのだろう。
妻の行為は「疲れた旅人に1杯の水」ほどの役割としては認めるが、投機家の適格性となると疑わしい。Y君、および商品外務員諸君、何百倍もの資力のある適正勧誘対象者がごまんといる。昔のことだが、あるセールスが毎朝定刻に名刺を郵便受に入れ、玄関先でその主人が車で出勤するのを頭を下げて見送っていた。1年たった頃、車が彼の前で止まり、窓があいた。「君、うちの会社にきませんか?」と。往年の松下幸之助氏だった。出会いはすべて不招請。 |