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みなさん 相場をはりましょう
福島 恒雄
 この業界に入って2年ほど経ったとき、密かにゴム相場をやったことがある。建てたのがたったの2枚にもかかわらず、日々、万単位の損益が発生することは、薄給の身にとって精神的にも日々の生活にもきつかったが、相場を張ろうと決めた日から、毎朝、職場に届けられた相場紙全てに目を通し、その日、その日の相場の行方を考えていたわけで、相場が動いている真昼間、就業時間中にもかかわらず、なにかそわそわした落ち着かない精神状態の中にあったことが思い出される。
 「密かに」と書いたが、それは当時の職場の就業規則に、商品相場禁止条項があり、本来なら相場をはってはいけない状況だったからで、この禁止条項は、取引所を含む関係団体、そして商品取引員の多くにも存在していた。取引所の役員の方から、「あそこの社長はかなり手張りしているらしいぞ」などという裏情報があったぐらいだから、業界のムードとしては、社員の手張りは禁忌の部類に入るものだったのかもしれないが、その一方で、オーナー社長の中には相場が好きで好きでたまらない、相場と罫線の話をはじめたら止まらないというような方も居られたのも事実だ。今思い出すと、そんな相場好きの方々のほうが人間味にあふれ、愛すべき方々だったような気がする。団鬼六や佐藤愛子のように実際商品相場にはまった著名人はいるし、市場経済研究所の鍋島さんの描き出す相場師曼荼羅には、えっあの人も、というような人々も存在する。禁止条項のあった日本経済新聞社を退いた後相場を始められた米良さんや林さんのお話を聴くと、当事者にとっては「冗談ではない」状況かもしれないが、商品相場の魅力の一つをお聞きしているような思いがするから不思議だ。
 今もこの商品相場禁止条項は健在なはずで、取引所に限らず、商品取引員各社も、営業体を含む社員に手張りを禁止しているところが少なからずある。商品取引員業務とは何か、というと、「情報サービス産業」という如何にもお役所的な表現を使われることが多いが、実のところ「商品相場」を売っているのであり、その売り子の上から下まで相場を張ったことがなく、実地体験していないというのは如何なものか。偉そうな、とお叱りの声が聞こえてきそうだが、この際、かかる就業規則は撤廃し、取引所を含め当業界に関係するみなさん全員が、自腹を切って相場を、枚数はともかく一度体験できるよう環境を整備してはいかがだろう。
 実は、今現在私の勤務する団体の就業規則にはその禁止条項がない。一部の取引員さんではゴミと呼ばれるピンの客以外なりようもないが、米良さん、林さんから相場観測を拝聴し、密かに、曲がり屋に向かってみようかと思い始めている。

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