第 332回

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米良 周              
 1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 先物ジャーナル社・代表取締役。09年同社退社
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)。近著(08年6月)「商品先物取引の手引き」(同友館刊)がある。

欧州現物需要、金価格押し上げ
ドイツでECBの国債買い上げがインフレ圧力につながる懸念呼ぶ
  
 「金、投資家が変動からの逃避求め史上最高値に接近」
 英紙ファイナンシャル・タイムス(FT、12日付1面)に“安全第一”というキャプション付きの金相場上昇のグラフを掲げた記事が載っている。
 「世界的な金地金、金貨への需要が08年(9月)のリーマン・プラザーズ破綻以来の高い水準に達している。変動する欧州の金融市場からの逃避先として、特にドイツの動きが極立つ。需要増をテコに金は11日、史上最高値にあと一歩にせまった。ロンドンの金現物は1トロイオンス1223.90ドルと今年の高値を記録、09年12月の最高値1226.10ドルにせまった」
 「ユーロ建て金は1トロイオンス963.10ユーロと最高値に達した。今年はじめからの上昇率は約26%。フランクフルトでは金の売り手が先週末の需要は通常の3〜4倍と語っている。トレーダーとコインディーラーは需要は特にドイツとスイスで強いと述べている。需要急増は欧州中央銀行(ECB)がギリシャの負債危機に対応ユーロ圏の国債を買い上げる措置を決めたのを受け、ドイツ国民に潜在的なインフレへの深い懸念を抱かせた結果のようだ」
 「ニューヨークベースの大手コインショップ、マンフラ・トーデラ&ブルックスの社長、マイケル・クラマー氏は『海外の需要が大きい。需要の多くはドイツに帰着する』と語っている。在ロンドンUBSの貴金属ストラテジスト、エデル・クリー氏は『コインの需要は供給が追い付かないほど盛り上がっている』と付言している。最大手のブリオン・バンク、UBSのジュネーブとチユーリッヒの金販売デスクは先週木曜日(6日)、ユーロ圏の危機伝幡懸念に揺れる最中、金貨と小型バーが08年以来最大の需要を記録したと報告している」
 「オーストリア造幣局は過去2週で今年1〜3月のハーモニー・コインの売却量8万9100トロイオンスを上回った。『我々は3交代シフトを敷き、24時生産している』─造幣局のマーケティング・ディレクター、ケリー・タッターソール氏は証言する」
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 「12日、金と銀は強い投資需要を支えに上昇した。現物金は1%高の⊥244.70ドルと史上最高値を付け、銀は1.8%高の19.61ドルと08年3月以来の高値となった」(FT、13日付商品欄)。
 今回の金史上最高値示現への道中を通じ、ドルは対ユーロだけでなく、他通貨へも底堅さをみせている。
 通常、米ドルと(ドル建て)金は逆相関の関係にある。インド、中国という二大実需大国は引き締めの方向にある。金融引き締めは金需要にマイナス効果を及ぼす。
 それにドイツ中心の個人の金現物投資。ECBの国債買い入れが、潜在的なインフレ要因として働く懸念といっても、EC経済圏は財政引締めを目ざしている。だとすればこの面はデフレ要因。
 ドイツの超インフレは歴史の彼方で、曽祖父母の教訓が生き続けているかは疑問。ドイツの金買いは過大視されているのではあるまいか。
 筆者の金は走り過ぎという考えに援軍ならぬ援文を得た。
 FT(13日付、マーケッツ&インベステイング面、ビュー・オブ・ザ・デー欄)の一文である。筆者はキャピタル・エコノミックスのチーフ・インターナショナル・エコノミスト、ジュリアン・ジェソップ氏。「金は現在の記録的高値から年末までにかなりの後退をみせよう」とみる。
 「金のパフォーマンスは印象的であり、多分さらに上がるだろう。公的債務の水準への広範にわたる懸念、政治家の尊厳と金融システムの状態はその価値がいかなる政府なり銀行の信用にも依存しない資産への理想的なシナリオを描かせる。にもかかわらず、金はドルの底堅さに押さえられ、12月の高値をいまやっと上回ったのである」
 ジェソップ氏は例えば石油や株式など他の資産に比べ、歴史的にみて金はいまなお特段に高いわけではない、と認める。目先1400ドルへの上昇予測を信じにくいとはいえないが、かなり行き過ぎだ、とする。
 「ECの救済策はユーロ圏のさしせまる金融市場融解を回避させた。と同時に、求められる財政緊縮策はインフレを抑制する。中国を含む他の主要国の刺激策の後退は世界の成長と商品価格の下落を呼び込む。金はインフレヘッジという支えを失なうだろう」
 「経済大国の実際の破綻、あるいはドルの崩壊がなかりせば、2010年末までに金は1000ドルへの後退が予想できよう」
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 乾繭100.6%、ソ毛82.5%、綿花67.4%─天然繊維原料の09年始比上昇率。天然繊維上昇へのそろい踏みのFT記事を訳していて郷愁の思いがつのるばかりだった。(アングル欄参照)
 新米記者3年目は糸へん相場取材の日々。生糸は横浜支局の担当だが、綿糸、毛糸、人絹糸は東京繊維商品取引所詰めがフォローする。
 富士紡、日清紡、埼玉紡…ちょっと東京駅近くまで足を延ばして日東紡。毛紡では大東紡、てくてく歩いて大同毛織、上京中の林紡社長にははてどこで取材していたのだろうか。
 伊藤忠、丸紅の繊維部隊へは日に2回は訪れた。通産省には繊維局があった。
 戦争直後の糸へん全盛期は過ぎ、操短カルテルが年中行事だったが、糸へんにはそれなりの存在感があり、取引所相場は指標性を誇示していた。
 昭和37年のことである。
 7年の名古屋勤務から帰った48年春には毛糸、生糸が暴騰劇を演じ、通産、農林から立ち会いをストップさせられる事態が生じた。
 「投機に非ず。需給に原因。立ち会いストップは指標喪失を呼ぶだけである」
 こんな批判文を書いたものだ。
 で、天然繊維原料の今回の急騰。cocoon は乾繭とすぐに訳せたが、さて artificial fibres はなんだっけ、人絹は人造絹糸だから人造繊維か。ひと晩明けてもどうもしっくりしない。そうそう合成ゴムの伝で合成繊維だと思い出した。
 日本の商品取引所から糸へん商品が総退場して、糸の話題はめっきり減ったように感じるのはひが目か。
 FTの記事には原料高を製品コストに転稼するのはむづかしいが生糸は例外とある。
 「絹の衣服が非常に安い値段で売られることは絹はもはや何か貴重なものではないと受け止められる。絹製品の購入は値段の問題ではなく、(美の)極致の問題だ」
 リオンの生糸商のことばが紹介されている。
 天然繊維ならではの事情であろう。
 天然繊維の復調から筆者は次の2点を指摘したい。
 商品の高下にはサイクルがあり、すべてが上がり、すべてが下がることはない。商品取引所は商品の繁閑に対応、上場商品の品数をそろえておく必要がある。
 安値はいずれ高値につながり、高値は安値の種を蒔く。商品のスーパーサイクル?に取り残されていた天然繊維原料を見よである。
 現物商品は本来金融商品と異なり、政治家や金融機関の恣意的な動きの埒外にある、と知れ。


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