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自己玉について
沼野 龍男
 自己玉とは、会員が自己の勘定で取引所で商いを行うことをいう。
 大量の商品(取引所の検査に合致したものに限る)を取引所を通じて売り渡す場合、逆に取引所を通じて買い付ける場合もある。また生産、流通、加工に携わる中で、予測できない価格変動によって蒙るリスクをカヴァーする目的(ヘッジ)で売買する場合もあろう。
 会員のなかでも、顧客からの委託を受けて取引を仲介する専業取引員の自己玉は少しばかり事情を異にする。

○委託者の取引の片寄り
 確率的には売りも買いも同率のはずだが、委託玉は買い傾向が強い。買い建玉と売り建玉を相殺した玉尻が「買い」であるとすると、相場が委託者の思惑通りに行かなかった場合(この例では下落)、取引員には場勘定(差金)の立替が生じる。そのリスクを軽減しようとすると、玉尻を限りなくゼロに近づけなければならない。
 商社やメーカーなど現物を取り扱う法人筋の売り建玉の導入に力を入れることになる(法人部門の強化)。勿論、取引員の自己の勘定で埋め合わせるのも可能だが、取引員の自己玉には一定のルールが存在するので、自在に補なうわけにはいかない。
 委託者の立場に立って、この仮定を続けるならば、相場が運悪く暴落しストップ安が続くようなとき、顧客が売り手仕舞って損切りしたくとも市場では相手がいない。そんな折、自己玉の売り玉を買い手仕舞うことで、顧客の仕切りを成立させることが可能である。
 このように委託玉に対時する自己玉は、差金の立替リスク軽減と自社で取引して頂いている顧客へのサービスの一部ともいえ、一概に識者が宣ふ「利益相反」で片付けられる単純なものではない。また当然のことながら、市場流動性にも貢献している。

○損切りは早く、利食いはゆっくり
 人は往々にして、この逆に嵌りやすいもの。利食いは早く、追証(追加証拠金)を入れて踏ん張る(損切りはゆっくり)傾向が強い。
 本来は、取引員や外務員は相場テクニックとして、この辺を上手に指導すべき立場にあるはずだが、「財産がオイショ(追証)、オイショ(追証)と逃げていく」とは、踏ん切りの悪いあるお客様の嘆き節。

○過去の恥部
 すべての個人委託玉(商社やメーカーなどの法人からの委託玉は除く)に自己玉等で対峙する。等とは、自己玉には制限があるので、法人を装った特別委託玉(関連会社、ダミー会社の借名、仮名口座)で立ち向かう。過去形ではあるが取組表をみればその傾向が一目瞭然の取引員が複数社存在した。売り建玉数と買い建玉数が完全に一致していた。顧客が利食いは早く、損切りがゆっくりなら、対峠する自己玉やダミー玉は損切りは早く、利食いはゆっくりということになる。会社ぐるみでこの営業方針だと、それに添って無理矢理リードすることもありえよう。これは正にサービス業の生命の喪失である。
 この方式を助長した営業評価システムに「純増方式」と呼ばれるまやかしのものがあった。簡単にいえばお客様が相場で儲けて、利益金を払出した場合、マイナス評価をした。本来的営業マンのサービス努力の成果をである。
 忌まわしいこの方式は今は昔である。それは情報化と委託者の適格性や習熱度の向上により、そのような取引員を選択しなくなったことである。加えて、良識ある営業マンが知的情報サービス業務の何たるかを自覚して成長してきたからでもある。
 良識ある営業マンとは少なくとも「コンプライアンス」を説く必要のない人たちである。収引員の数が減じても、これらの外務員を1人でも多く育成し、残すことが業界の使命と考える。
(週刊 先物ジャーナル 09年2月9日 975号 掲載)

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