第 312回

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米良 周              
 1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 先物ジャーナル社・代表取締役。09年同社退社
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)。近著(08年6月)「商品先物取引の手引き」(同友館刊)がある。

インド、IMF保有金(200トン)購入
20年に及ぶ反金感情に終止符?
  
 金相場は3日、インドの中央銀行によるIMF(国際通貨基金)保有金の200トン購入のニュースを受け史上最高値を更新した。
 IMFからインド準備銀行へ、いわば公的機関間の移動に過ぎない。さらにIMF保有金のうち403トンの売却は機関決定され、既定事実でもあった。なのになぜ金相場はこのニュースを受け走ったのか。
 英紙ファイナンシャル・タイムス(FT、4日付1面)の「インドのドル売り・金買い、金を押し上げ」と題する記事に市場の受け止め方が記述されている。
 「インドの67億ドルと世界産金の8%に相当する金との交換決定はアジア各国が米国通貨から離れようとしているとのかつてない強いシグナルを送った」
 「インドによるIMF保有金購入は金相場を前日比2.6%高の1トロイオンス1086.10ドル(ロンドン)に押し上げた。トレーダーは他の中央銀行がTMF金の)買い手として登場すると読んだからだ」
 「インドのプラナプ・ムカジー財務相は金獲得は世界の外貨準備高で5位を占める経済力を反映したものだとし、『我々は金を買う資金を持ち、外貨準備も十分』と語り、『ヨーロッパは陥没し、北米も陥没した』とインドの力を他の弱さと比較強調した」
 「パークレイズ・キャピタルのディレクターで金スペシャリストのジョナサン・スポール氏は『これは画期的取引。中央銀行は保守的な機関で、インドの動きは他の中央銀行や国富ファンド(ソプリン・ウエルス・ファンド)が金購入を考慮しているサインでもある』と指摘している」
 「トレーダー、鉱山経営者はIMFの金売却予定分の残り(203トン)について、中国、サウジアラビア、中東のソプリン・ウエルス・ファンドなどを買い手候補とみている」
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 FT(4日付2面)の“金売却”特集の見出しは「ニューデリ、金回帰にホールマーク印す」。
 ホールマークとはロンドンのゴールドスミスホールで金、銀、プラチナの純分を検証したところから出た金の純分認証極印のこと(研究社の新英和中辞典)。
 20年売り手サイドに回っていた中央銀行がインドの金購入をきっかけに、買い手に回る(少なくとも大量売却はない)可能性を市場が読み取ったことを表現し
た見出しである。
 FT2面の記事をベースにこの20年の動きをみよう。
 「過去20年中央銀行は反金感情(アンチ・ゴールド・センチメント)の支配下にあった」
 欧州の金融当局は大量の金を売却する一方、アジア各国は米国債を準備資産の中核に据えることを選んだ。この結果、08年現在、世界の公的準備に占める金の割合は10.3%と1989年の32.7%から大幅に下がった。
 そうした風景は今日、決定的に変わったようにみえる。欧州の売却はのろのろ運転だし、アジアの中央銀行はドルを金に換え始めている。
 その確たる証拠はインドの金200トン購入である。ロンドンの金属コンサルティング会社、GFMSの研究部門ディレクターであるニール・ミーダー氏は「インドの購入は中央銀行が公的準備に金を組み込むことへ前向きな姿勢に転じた全般的傾向に合致する」と述べている。
 「インド準備銀行の金購入は中国が過去6年にわたってひそかに準備金を積み増し、世界5位の金保有国に達したことを明らかにしてからわずか数ヵ月後のことである」
 ロシア、ベネズエラ、メキシコそしてフィリピンの中央銀行がわずかながら金購入に動いた。HSBCの貴金属ストラティジスト、ジェームス・スティール氏は「このインドの動きは公的機関による分散投資の方向を改めて確認したもので、金には強材料」と指摘する。で、この変化は金市場にとって二つの点で重要である。ひとつは心理的な支えであり、さらに重視すべきは供給源に上限が設けられた点だ。
 GFMSの推定では過去20年、公的機関による正味(売りから買いを差し引いた)売却量は年平均400トン(総供給の約11%)。金相場は1999年、英中央銀行による売却で23年来の安値である250ドルまで沈んだ。
 「最近の購入にもかかわらず、公的準備に占める金の比率はささやか。インドは6%、中国は2%、欧州の平均60%に比べると格段に低い。米国は過去20年、金を売却せず、約8100トンを保有、公的準備に占める比率は77%以上」
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 要は過去20年にわたるアンチ・ゴールド・センチメントが消えた結果の(名目)史上最高値というのがFT特集記事の結論である。
 で、公的金分野はどでん大口買い手に転じるだろうか。筆者は否定的。
 中国あるいはサウジといったゆとりある国は公的準備の中核を占めるドル資産の低下を呼ぶ金購入に大胆に踏み切るとは思えない。
 インドの金購入を伝えるFTの1面トップは生きる伝説の米投資家ウォーレン・パフェット氏(その投資会社、パークシャー・ハザウェイ)が3日、米鉄道大手バーリントン・ノーザン・サンタフェ株に260億ドルを投じるニュースが載っている。
 「米国の最良の年が待っている。疑問の余地はない」。CNBCでのパフェット氏の言明だという。
 米国経済の活性化による鉄道利用の増加、それに環境によりやさしい鉄道の見直しを見据えたものだろう。
 インドの金購入代金67億ドルのざっと4倍の鉄道株投資である。
 金市場がいかに小さいかを示す象徴的数値である。と同時に中長期的には米国(ドル)の復活を見込む投資家の存在を浮き彫りにしている。
 金の高値までの上昇率15%はドルのバスケット通貨への15%下落と符合する。
 インドショックが去れば回収金増加・加工需要減が待っている。ドルの推移と合わせて、金相場は青天井ではあるまい。

 (週刊 先物ジャーナル 09年11月9日 第1013号 掲載)

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