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笑って損切りできる客を探せ
杉江 雅彦
 筆者がまだ幼かった頃の、不思議な体験から話をはじめよう。
 近所に、子どもの常識では到底考えられない家があった。ある時は、家の中のどの部屋にも立派な家具が置かれていて、まるで御殿のようだったと思うと、次に訪ねた時には家の中ががらんとしていて、家具一つない。
 また、何ヵ月かして行ってみると、あら不思議、元のように立派な家具が揃っている。さっぱり合点がいかぬので、親父に聞くと、「あそこの主人は相場師だ」との答えが返ってきた。しかし、その当時の私には”相場師“がどんな仕事なのか、さっぱり見当がつかなかった。
 後になって知ったことだが、その家の主人─つまり私の幼友だちの父親は、もっぱら小豆相場に嵌っていたらしい。確たる定職を持たず、もっぱら親譲りの資産を相場につぎ込んで暮らしていたのだ。
 そんな小金持ちの相場好きから注文を受けていた商品仲買人(現在の取引員)も、自らディーリングにのめり込んで、いまでは違法の“呑み行為”も働いていた。つまり、業者も客もプロもしくはセミプロで、もっぱら投機の世界に憂き身をやつしていたといえる。
 商品業者が不特定多数の一般投資家から売買注文を受託して、自らはそこから入る手数料収入で経営するという現在の姿になったのは、1950年代後半からの“株式ブーム”以降のことに属する。
 証券にせよ商品にしても、相場商品には価格変動リスクがつきまとうのが常識である。アマチュア投資家は証券会社や商品取引員のようなプロとはちがい、自分で投資価値の分析や相場の予測を行うのは不得手だから、どうしても専門業者の助言や意見を聞いて投資判断をすることが多い。
 その場合、証券会社には証券アナリストの資格がある専門家がいて、直接、間接に投資家にアドバイスする制度が、不十分ながら備わっている。ところが商品先物業界には、証券アナリストに対応するようなアナリストの資格制度が存在しない。もっぱら営業マンが持つ情報と相場観(勘?)だけで、顧客を誘導しているように思えてならない。
 こういう現状にあるため、規制官庁としては売買参加者をプロとせいぜいセミプロだけに限定し、アマチュアを遠ざけようとする政策を採用しようとしてきた。筆者はこの方法が正しいとは思わないが、商品取引員の経営も手数料収入にその大半を頼るというやり方から、原点に戻ってディーリングを中心とした小規模な組織とし、リスクティキングができる個人の富裕層だけを顧客とする方向に転換したらどうだろうか。そんな業者が現れてもよいのではないか。
(週刊 先物ジャーナル 09年10月26日 1011号 掲載)

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