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あなたはブラック・スワンを信じますか
杉江 雅彦
 エルニーニョの賜物というべきかどうか、今年の夏は酷暑日がすくなく、比較的過しやすい日が多かった。例年、夏になると暑さにやられ読書量がめっきり減る私だが、今年は逆にかなりの冊数をこなすことができた。
 そんな中の一冊(上下だから本当は二冊)に、ナシーム・ニコラス・タレブという人が書いた『プラック・スワン』がある。これが大変な代物であった。著者紹介によると、「文芸評論家、実証主義者にして、非情のデリバティブ・トレーダー」とある。現職はマサチュセッツ大学アマースト校の教授で、不確実性科学を研究している人らしい。
 ブラック・スワンすなわち黒い白鳥というのは、ふつうの常識では存在しないと考えられていたのに、現実に現れた鳥のことを指しているが、タレプによれば、このような現象は自然界だけでなく、人間社会でも起こりえるというのである。たとえれば9・11事件(2001年)やブラック・マンデー(1987年)などがそれにあたるとタレブはいう。この本がアメリカで出版されたのが2007年で、その直後にサブプライムローン破綻が起ったため、一躍、タレブはウオール街あたりで引っ張り凧になった。
 なにしろタレブは、「通念はまったく通用しないことを理解すべきだ」と言って、経済予測をするエコノミストや経済学者をこっぴどくこきおろす。「あいつらは芸人なのだ」とまでののしって平然としている。これをたんなる哲学的レトリックだと無視してもよい。
 しかし、タレブが“ベル型カーブ”と呼んで痛烈に批判する、正規分布やそれに近い型の確率分布を鵜呑みにして、その裾野(これをティルと呼ぶ)に位置する現象を「想定外」として切り捨ててきた私たちも、滅多に起ることはないが、いったん起ると大きな影響(とくに損害)をもたらす可能性について、頭に置いておく必要があると思う。
 商品先物市場へのヒントはないかと思いめぐらせていると、日本航空が米国のデルタ航空(旅客数世界一)に大量出資を仰いでいるとのニュースが飛び込んできた。これもタレブのいうブラック・スワンかも知れない。ひょっとすると、たとえば東京証券取引所がNYSEユーロネクストと統合したり、CMEグループによって東京工業品取引所が吸収されるなどが、現実に起る可能性だって考えられないわけではない。
 福沢諭吉の『福翁自伝』にこんな文章をみつけた。「すべて事の極端を想像して覚悟を定め、マサカの時に狼狽せぬように後悔せぬようにとばかり考えています」
(週刊 先物ジャーナル 09年9月21日 1006号 掲載)

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