第 281回

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米良 周              
 1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)。近著(08年6月)「商品先物取引の手引き」(同友館刊)がある。

チューダー・ファンド解約停止
市場混乱収息近しのシグナル?
    
 チューダー・ファンドが解約停止。
 英紙ファイナンシャル・タイムス(FT、2日付)の見出しにはぎょっとした。
 「1987年の株式市場のクラッシュ時に名をはせ、財を築いたポール・チューダー・ジョーンズ氏は資産規模100億ドルの旗艦へッジファンドからトシック(毒性)資産を分離するため、再構築が終わるまで解約を停止する」
 「金曜日(11月28日)送付の顧客向け書簡で、ジョーンズ氏は今年末までにチューダー・BVIファンドから14%の解約希望があるが、この解約に応じた場合、残る投資家は途上国社債など流動性の乏しい資産を多く抱える結果となる、とし解約停止を訴えている」
 解約が解禁となるのはトシック・アセットが分離されたあとの3月末になろうと書簡では述べている。
 記事によると、資産価値の低下(パフォーマンス悪化)と解約でモルガン・スタンレー調べではヘッジファンドの資産規模は6月から12月末までに35〜45%縮小するとある。
 チューダー・ファンド解約停止の見出しに筆者がたじろいだのはヘッジファンドの雄ともいうべきジョーンズ氏さえ解約の波にさらされているという現実にである。
 FTの記事によると、BVIファンドの下落率は11月末までで5%にとどまる(ヘッジファンド・リサーチのHFRI指数によるとへッジファンドの平均下落率は16%)、しかもBVIファンドは22年連続プラスという輝かしい成績を持っている。
 リスク回避、現金への逃避極まれり、という感想を抱いたゆえんだ。
 FTの市場と投資面の分析欄にはヘッジ・ファンド解約の推移をたどったグラフが出ている。
 「解約制限があるという事実に富裕投資家はとまどっている。ファンド・オプ・ヘッジファンドは現金を一時滞流させておく手段だったからだ。今、これまで理解していなかった流動性リスクの存在を知り、今後は二の足を踏むのではないか」
 「これはへッジファンドそれ自体の終わりを告げるものではなく、(特徴のない)並のへッジファンドの終わりとなろう」
 分析記事の結語部分である。
 ジョーンズ氏のファンドの運用対象の中心は金利、株式指数、商品、通貨など流動性の高い市場で、その手法は出入り自在。ヘッジファンド苦境を乗り切る余地は大きいだろう。
 大物投資家の退場は市場の転機になる。かつて、ヘッジファンドの帝王、タイガー・マネジメントのジュリアン・ロバートソン氏が退場したのは確か「IT株の高騰はわけがわからない」という理由だった。彼の退場はITバブルのピークと重なり合っていたと思う。
 ジョーンズ氏は退場ではなく、トシック・アセットの分離・整とん。
 大物投資家の動きはなにかの予兆となることが多い。
 「市場混乱終息近しのシグナル?」という標題を掲げてみた理由である。
◆     ◆     ◆     ◆
 2社による独占、いわば複占下にあったコモディティ・ビジネスに新たな風が吹いてきた。
FT(11月28日付)市場と投資面のニュースは分析欄では「ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーによる20年に及ぶ復占体制が崩れようとしている」と指摘している。
 「信用収縮によって、ウォールストリートの2行─顧客のリスクとへッジの引き受けから、自己取引に至る広い範囲を独占してきた─は控え目なアプローチをせまられている。その間隙をを縫って、パークレイズ・キャピタルとJPモルガンの2杜を筆頭にRBS・セムプラ、ドイツ銀行、クレジ・スイス、ソシエテ・ジェネラルなどが力を付けてきた」
 なぜ、いまコモディティなのか。記事によるポイントをざっと抜き出してみる。
・信用収縮によってカウンター・パーティ(取引相手)リスクとバランス・シートの強さへの関心が強まり、顧客はフトコロの深い取引先を求めるようになった。
・銀行にとって金融危機は実物資産(発電所や砂糖工場など)獲得の機会となっている。
・顧客のニーズを自社内で相殺できれば、重要なリスク管理手段となる(例えば石油会社が利益を確定しようとし、航空会社が燃料コストをへッジするケース)。
 現物商品取引の延長線上で石油貯蔵施設、輸出ターミナル、パイプラインなどを手中に収めれば幅広い商品取引が可能になるということだろう。
 目先的には商品ブームは収息したかにみえるが、現物商品(その延長での先物)市場の陣取り合戦は進んでいるかのようだ。
 日本勢はこの合戦にどう加わるのか、銀行なのか証券なのか、はたまた厳冬期を抜け出し業容一新した商品取引員なのか(コモディティー4強時代の表はFTの表を筆者が組み替えた)。
   
  コモディティ4強時代

収入(ドル)
スタッフ(人員)
ゴールドマン・サックス
30億以上
300
(ウォールストリート最大の石油トレーダー商品指数ビジネス)
モルガン・スタンレー
30億以下
330
(現物市場、特に原油と砂糖など農産物の大手とレーダー)
バークレイズ・キャピタル
20億以上
300
(リーマン・ブラザースの商品ビジネス取得・指数ビジネス提供)
JPモルガン
10〜15億
450
(ベア・スターンズ取得で、米国天然ガス・電力市場で存在感)

 (週刊 先物ジャーナル 08年12月8日 第967号 掲載)

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