第 269回

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米良 周              
 1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)。近著(08年6月)「商品先物取引の手引き」(同友館刊)がある。

ハリケーン・グスタフに原油相場走らず
  
 ハリケーン・グスタフに原油相場走らず。
 メキシコ湾岸は米国エネルギーの供給源であり、同地区は多くの商品の物流基地でもある。米国石油の25%、天然ガスの37%を依存する。
 05年8月29日に湾岸地区を襲ったハリケーン・カトリーナは1863人の死者と810億ドルの損害を与えた。カトリーナに匹敵する規模のグスタフは上陸はしたものの、力は衰え、被害は最小限にとどまった。
 ハリケーン接近とともに1バレル120ドル台を固めていた原油も1日には失速した。
 英紙ファイナンシャル・タイムス(FT、2日付)のショート・ビュー欄でジャビール・プラス氏はカトリーナとグスタフの石油相場への影響の違いを次のように解説している。
 「ハリケーン・グスタフは05年のリタとカトリーナが石油相場に与えた影響の再現を予想した人はだれもが1日にその誤りを知らされた。グスタフの被害は当初予想より小さいと知るや、原油は休日で商いが薄かったこともあるが取引所外取引で1バレル5ドル下がって110ドルに接近した」
 「こうした急落は今日(こんにち)のファンダメンタルズの弱さを告げている。リタとカトリーナ襲来の時にはトレーダーたちは急激な需要増にやきもきしていた。いま彼らは中国の消費が米国、欧州、日本の急激な落ち込みを相殺できるかどうか疑っている。前向きな反省点に立って、当局者が戦略備蓄在庫の放出もありうべし、と事態に備えたこともある」
 「ドイツ銀行によると1995年以来、米国では8回にわたり大型ハリケーンが襲来、石油供給が途絶えたが、持続的上昇につながったのはただの1回にとどまる。メキシコ湾岸部の空が晴れわたるにつれ、ファンダメンタルズが前面に出てきた。米国の改訂需要データはさらに需給が緩和していることを示す。6月の消費は日量1955万3000バレルと月間としては10年来の低水準。7、8月のデータもカットが予想される」
 OPECは8月も増産とあってグスタフは7月高値(147.27ドル)に向けての再上昇の起点とはならなかった。だが来週ウィーンでのOPEC会合は減産を決めることになるかもしれない。原油は下がったとはいえ、1年前に比べると47%高である。
 ショート・ビューの結語である。
 ハリケーン・グスタフは先進国需要の弱さを改めて浮き彫りにするリトマス試験紙の役割を果たしたといえそうだ。
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 「値下がりは原油にとどまらず、ほとんどの原材料に波及している」
 FT(3日付一のニュース分析欄は「商品のリターン」の表をかかげながら、商品下落の背景を次のように分析している。
 「ドイツ銀行が値動きを追う別商品のうち生牛、木材、砂糖、ポークベリーのわずか4商品が年後半のここまでの期間にプラスのリターンをみせているにとどまり、他は5%からおよそ40%のロスとなっている。ロイター・ジャファリーズCRB指数は、前半で約30%と1〜6月で35年振りの上昇をみせたあと、6月末から18.9%下落、6ヵ月半振りの低水準となっでいる」
 「1000億ドル見当の資産がその値動きに沿って運用されているS&PGSCI指数は年初から現存〈8月末)まで15.3%上がっているが、1〜6月の上昇率の半分にとどまっている」
 「商品下落の共通点は世界経済の成長についての見直し。投資家には景気減速は米国から欧州、日本に波及、商品の重要な需要源である中国など途上国にも及ぼうとしているという懸念もある。パリに本拠を置くOECDは2日、予想モデルは年末にかけて弱い成長を示していると指摘、『金融市場の混乱、住宅市場の下降、そして高い商品価格が世界の経済成長の重しとなり続ける』と述べている。米ドルが特にユーロ、英ポンドに対して強いことも商品の弱材料とトレーダーはみている」
 「個々の需給の差にかかわらず、商品価格全般が下がる、いわば無差別的下落は収益確保の(利食い)売り、マージン・コール(追証拠金請求)に応じての損切りがともに浮上していることを示す、とみるアナリストもいる」
 記事の分析をみる限り、既存玉の整理売りの局面がなお続いており、調整終了の笛はまだ鳴っていないようだ。
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 調整終了の笛いまだし、と考えるのは英誌エコノミスト(8月23日号)の「コモディティ2 中国ショップの強気の面々」という記事の次の解説記事が気がかりだからだ。
 記事にはクレジット・スイスによる投資銀行の商品のValue─at─risk(VaR)の推定データが出ている(VaRは1日当たり生じうる最大の損失)
 VaRは02年から5倍に増え、およそ3億6000万ドルに達し、投資銀行が争うリスク全体の4分の1に及ぶ、と記事は指摘している。
 「BISによると、店頭商品デリバティブの未決済残は額面上9兆ドルに達している。取引所取引の未決済残は07年12月までの2年で6倍に膨れ上がっている。クレジット・デリバティプの二の舞ともなればどうなるか、だれにもわからない」
 エコノミストの記事ではいまのところ大事故はないがと解説しているが、〈8月23日号)発行後、リーマン・プラザース20%出資のヘッジファンド〈商品や資源株中心)ospraleの破綻が伝わっている。
 投資銀行、関連ファンドへの商品急落の波紋もこれから、ともいえよう。
 いわゆる商品のプロの失敗はでかくて及ぼすところが大きい。

 (週刊 先物ジャーナル 08年9月8日 第954号 掲載)

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