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誠実、公正義務
沼野 龍男
 前回の札幌高裁民事判決について、読者より「画竜点描を欠く」旨の反応をいただいた。いかに資力があるお客様でも、初回取引が1500万円、金200枚建玉は多過ぎないか。その指摘を欠いているというもの。
 昔からある相場格言に「相場の金と凧の糸は出し切るな」、「買い米を一度に買うは無分別、二度に買うべし、三度に買うべし」などがある。まず「出し切るな論」は、風向きによっては相場が思わぬ方向にもって行かれ、予期せぬ糸を出さざるを得ぬ事態があることを戒めている。出し切らず残す糸の量はおよそ半分から3割くらいが推測される。
 次の三度ぐらいに「分けて買え論」は、絶対チャンスが今しかないのではなく、変動するものだけに難平買い的な手当てがベターと説いている。よしんば絶対チャンスを逃したとしても、長い目でみると堅実な生き方の反映とみなせますよと。
 さて、相場好きの親兄弟、友人がいたとして、彼に6000万円の運用資金(くどいようだが、彼や家族の生活や福利を害することのない余裕資金)があり、一攫千金を視野に入れて取り敢えず運用資金の25%相当の1500万円の証拠金で金200枚建玉したいといったら、「初めての取引でそれはちょっと大き過ぎないか。せめて50枚くらいから始めては」と諌めるのではないかと。
 赤の他人様に対しても、同様に忠告できるか否かが公正誠実義務で問われている、と仰りたいのであろう。
 新入社員が研修を終え、外務活動が始まり最初のフォローアップ研修では「飛込恐怖症」と「勧誘恐怖症」が大きなテーマになる。
 前者は仲間たちの態度行動を見習うことで解決しやすいが、後者は考え方の違いに根ざしている。1枚を勧めるのが精一杯で、限りなくゼロ枚、即ち勧誘自体が反社会的行為と考えるうにまで落ち込んでしまう。いう呪縛である。
 本件では、顧客は自分の成功欲と二人ずれで、運用資金の中から出せる最大限を用意した(自己責任)他方、担当外務員は大きな仕事の成果としての大口受注の限界を暗黙裡に承諾した(少し多すぎませんか?と言わなかった)。
 知識として承知しているレベルと実際に取引を体験するのとでは大さな差異があろう。資金量や社会的経済的経験の多少に拘らず習熟期間(経験を通して学び、馴れてもらうための)が置かれているわけである。
 故間淵直三氏が東工取理事長当時、ある会合で「近年ビヘイビアの良い会社はアップアップで、悪い会社はガツポリ儲けているらしいが、いかがなものか」と苦言を呈したことがあった。
 本件取引員は正に前者の一つであったろう。法律や規制の領域以上に独自の高い使命感や目標感を持ち、社内文化を向上させてきたと理解している。その独自規範や基準に照らしてどうであるかが問われている。
(週刊 先物ジャーナル 08年7月21日 948号 掲載)